馬場小室山フォーラム第091101号

2009年11月11日

さいたま市長        清水 勇人 様

さいたま市教育委員会教育長 桐渕 博  様

(写し)さいたま市議会議員 岡 真智子 様

(写し)さいたま市議会議員 高柳 俊哉 様

「馬場小室山遺跡に学ぶ市民フォーラム」実行委員会

          実行委員長 大田 堯

さいたま市史跡・馬場小室山遺跡の活用に関する要望書

 

馬場小室山遺跡はご承知の通り、旧浦和市が国史跡級として重要視し、また考古学においても「人面文土器」を一例とするように多くの論文などでも知られる、著名な縄文時代後半の集落遺跡であります。

当時は国有地として保存されていましたが、埋蔵文化財行政における合併混乱期に不幸にも開発の対象となりました。地域住民は旧浦和市の啓蒙・普及活動によって遺跡の重要性を知っておりましたので、保存運動が展開し、新聞報道されました。が、力及ばず、2004年には開発に伴う発掘調査が行われました。

この発掘調査では馬場小室山遺跡の集落形成における学術上の重要性が改めてクローズアップされることになり、発掘期間中に日本考古学協会から文化庁長官、埼玉県知事、さいたま市長宛に保存要望書が提出されるという異例の事態からも、学術上の価値が国史跡級であることが広く再認識されました。

こうした経緯を経て、馬場小室山遺跡は2005年3月29日にさいたま市指定文化財史跡に指定されました。民意と調和したすばらしい手続きでありますので、この達成が地域住民の要望に耳を傾け、遺跡の重要性に理解を示された市議の方々、そしてそれを受けて史跡指定への途を直接切り拓かれた当時の助役の英断の賜物であったことを明記しておきたいと思います。

 

さて、地域のまちづくりにとって重要なのは、文化資産として史跡に指定された後の活用であります。

「馬場小室山遺跡に学ぶ市民フォーラム」では文化資源を生かしたまちづくりを志向し、精神的拠り所である「地域のアイデンティティ創造」、原動力となる身近な「地域のアメニティ向上」、そして多様な交流から新たな伝統に生まれ変わる「地域のきずな再生」を目指し、継続した実践と提案を行って参りました。

しかし、史跡指定から数年を経た今日でも史跡・馬場小室山遺跡は立ち入り禁止です。しかも下草刈や小木の切り取りが定期的に行なわれておらず、特に夏場は地域住民や史跡を訪れる市民にとっては環境面や安全面において極めて不快かつ不安な印象を与えており、文化財としての本来の価値が生かされていません。2004年の発掘記録が未だに正式な報告書として刊行されないことも阻害要因です。

 

その間、「馬場小室山遺跡に学ぶ市民フォーラム」では、まちづくりの要となる「地域のアメニティ向上」を史跡・馬場小室山遺跡から発信し、将来に向けての持続可能性として史跡の活用を提案して参りました。日常的には馬場小室山遺跡研究会を開催し、2004年12月26日の第1回以来、すでに42回にわたるワークショップを史跡や地元の三室公民館で実施し、「地域のきずな再生」に努めております。その成果は市民とともに年に1度行ってきた「馬場小室山遺跡に学ぶ市民フォーラム」の場で、「見沼文化」という人類史的概念を「地域のアイデンティティ創造」として公表し、さらには「小室山のテーマ曲」を始めとしてジオラマや「みぬまっぷ」などの制作を通し、史跡活用構想をより身近に具体的に策定し、提案しました。

しかも本年の7月31日、8月1日、2日には、国立科学博物館の「サイエンス・スクエア2009」で馬場小室山遺跡をジオラマ展示し、「みぬまっぷ」で紹介しましたところ、3日間にもかかわらず小学生や父兄を中心とした参加者は実に843名にも達し、多くの方々の関心を集めました。

 

このように5年間にわたる市民活動の実績から、今こそ、2004年12月定例にて教育長が約束しました馬場小室山遺跡の活用についての検討や研究の成果を是非とも情報公開して頂き、市民とともに将来のまちづくりに向けた本格的な体制整備を図り、具体的な対応を進める時機ではないか、と思量します。

 

つきましては、さいたま市史跡・馬場小室山遺跡の活用について、以下の通り具体的に提案し、要望とします。これまでの経緯もありますので、2009年11月30日までに下記の担当宛ご回答をお願いします。

− 記 −

<要望事項>

要望事項1. 馬場小室山遺跡を歴史(史跡)公園にしましょう!

【基本方針】

馬場小室山遺跡を歴史(史跡)公園にし、「地域のアメニティ向上」を図りましょう。そして「見沼文化」という「地域のアイデンティティ創造」の一翼を担うべく、以下に示す有効活用施策(構想提案の骨子)を通し、多様な交流から将来に向けた新たな伝統形成を「地域のきずな再生」として強固なものにしましょう。

すぐにできることもあります。歴史(史跡)公園の緑地として、定期的に下草刈り+小木の切り取りを行います。日の当たる公園にしませんと安全性が保てず、市民にとって不安・不快な場所になってしまいます。現状を歴史(史跡)公園らしく整備し、緑の大木に名称を付し、土地の起伏の意味を解説し、壊された部分も含めた遺跡全体の説明看板を設置し、史跡散策の新しい名所としましょう。

 

「活用検討委員会」の設置による推進体制の整備】

2004年の教育長答弁を受けまして、「馬場小室山遺跡に学ぶ市民フォーラム」は「活用検討委員会」を念頭に置き、この5年間の活動実績から後述する構想提案を纏めました。

教育委員会でも教育長答弁にありましたように検討・研究を行なったはずですから、次のステップはまちづくりとしてあるべき姿を纏め上げるべく、行政と市民と学術・芸術ボランティアから構成する「活用検討委員会」を設置し、双方の構想を検討する、より大きなテーブルにつくことではないでしょうか。

 

【構想提案の骨子】

(1)ジオラマによる遺跡全体のイメージ復元と100年後の歴史(史跡)公園との一体化

現状の史跡部分約4,000平米は縄文時代遺跡全体の25%程度に過ぎませんので、遺跡のイメージをつかむことは困難です。そこで5基の「土塚」が環状に巡る集落を1/300でジオラマに復元しました。このジオラマは遺跡全体のイメージを理解するために重要ですし、国立科学博物館でも好評を博しましたので、歴史(史跡)公園に設置しましょう。

そして、地域のご理解を得ながら、100年後には史跡範囲を遺跡本来の姿に近づけるように指定範囲を広げ、夢のあるジオラマのように整備しましょう。

 

(2)歴史(史跡)公園で定期的に市民が交流するイベントの推進と文化財を保護する体制の整備

春の感謝祭>:5月4日(祝)に史跡のクリーンアップ大作戦。遺跡に感謝して清掃活動を行ないます。毎年実施しており、近隣の子どもたちには「青空考古学教室」が好評です。

       ・地域住民とともに「文化財を大切にする心」を育む場とします

夏の熱中祭>:8月前後には子供達をまじえて縄文時代の貝輪や土製耳飾などいろいろな出土遺物を参考に、自分たちで製作したり、縄文土器をおぼえたり、体験学習メニューを開発する企画運営も併せ、体験学習を体系的に行います。

       ・地域の文化財を保護していく人材の育成やサポータとの交流を推進します

秋の収穫祭>:10月から11月には熱中祭で制作した作品の展示や「第51号土壙」の謎に迫る催しなど多様な人材によるイベントを行ないます。たとえば、「第51号土壙」(出土した人面文土器は大英博物館に展示中!)を縮尺1/25のジオラマでイメージを膨らませます。縄文ミュージックによる野外コンサートなども行ないます。

          ・地域住民や地域の団体などとの連携協力の枠組みづくりを重点的に行います

冬の健康祭>:遺跡を観察するのにもっとも適した季節は冬です。2月から4月にかけては馬場小室山遺跡を中心にどのような遺跡が周辺にあるのか、散策します。

みぬまっぷ」という文化財ガイドブックで見沼周辺の遺跡銀座を堪能します。

          ・周辺地域のサポータとの連携により、身近な文化財の保護意識を醸成します

要望事項2. 馬場小室山遺跡から出土した全資料を身近に公開しましょう!

【背景と基本方針】

馬場小室山遺跡は32次にわたる発掘調査が行われ、大量の縄文時代の考古資料が出土していますが、

担当者を除くならば、市民も考古学研究者もその実際を見た人はいないのではないでしょうか。

著名なのは「第51土壙」と呼ばれた大型の地下遺構から出土した一括遺物ですが、人面文土器と角底土器など38個体が出土しており、一括出土としては重要文化財級の資料です。

国史跡級の遺跡からは重要文化財級の考古資料が検出されるという、さいたま市を象徴する学術上価値ある重要な馬場小室山遺跡でもありますので、地域のルーツを知ることによる「地域のアメニティ向上」を図るには考古資料の市民への身近な公開と歴史教育における活用が不可欠です。

特に2004年の第32次調査でも多世代の居住によって形成された「土塚」から多様な資料が、そして「土塚」に伴存する大型の土壙からは完全な形の土器群が多数埋納された状態で出土しましたが、未だにその記録保存である発掘調査報告書が刊行されておらず、情報公開が滞っております

史跡は史跡の有する学術上重要な価値の発見によって活用が大きく促進されますが、それだけでなく学界においても発掘調査報告書の正規の刊行が強く望まれておりますので、5年が経過した今こそ、文化財保護法の趣旨に則り、業務の適切かつ速やかなる遂行を要望します

政令市として「地域のアイデンティティ創造」に見沼の果たす役割は極めて大きいものと思量します。それにもかかわらず、さいたま市の現状は市立博物館や土器の館、浦和博物館など小さな施設ばかりが非効率に分散運営されており、さいたま市としての新たな文化政策的な展望が見えません。

見沼田んぼは合併により従来のような行政区画上の空間的分断が解消されました。このような千載一遇のチャンスにこそ、「見沼フィールド・ミュージアム構想」に代表されるような、「地域のアイデンティティ創造」によるまちづくりを進めるときであります。

すなわち、見沼のめぐみである馬場小室山遺跡から出土した大量の考古資料を保管・活用できるような、そして歴史(史跡)公園における「地域のアメニティ向上」を持続させるような自然系と歴史系、考古系を併せた中核施設が必要です。

そして、さいたま市民が見沼田んぼのルーツとなった文化遺産の素晴らしさに触れ、その形成が自然と人類の長い間の共生であることを体感できる場を享受する活用こそ、さいたま市が将来に向けて誇れる「地域のきずな再生」の姿であります。

 

「将来の文化財を考える検討委員会」の設置による「見沼文化」を生かしたまちづくり】 

考古資料に価値を与えるためには専門的な整理作業が必要です。現状は整理室を中心とした施設や分館などのそれぞれの特徴を生かした位置づけなどで小さい規模の施設でも何とか凌いでいるようですが、今後顕在化すると思われる大きな問題点があります。

それは発掘された資料は馬場小室山遺跡だけにはとどまらない、ということです。多くの遺跡が発掘されておりますし、それらの多くの資料が活用されないままに倉庫に眠っています。

考古資料は活用されることでその価値が増幅します。土の中から倉庫や収蔵庫に移っただけでは意味がありません。馬場小室山遺跡の収蔵資料の活用を考えることを契機とし、さいたま市全体の将来の文化財について検討する時期にきているのではないでしょうか。

また、今後の職員の定年を考えるならば、文化財保護課や博物館の学芸員の減耗補充も必要になると思います。しかし、「馬場小室山遺跡に学ぶ市民フォーラム」のような自立した市民がサポートすれば、指定管理者制度への移行においても質的な向上が図れ、従来以上の市民サービスが十分に可能です。記録映像『見沼をのぞんだ縄文むら―馬場小室山遺跡に学ぶ―の趣旨を生かす基盤づくりが重要です。

分散して小さい施設で凌いでいる現状では質の高い市民サービスに支障が出るだけでなく、管理業務を行なう人員にも無駄が多く、効率も悪いと思われます。

そこで、馬場小室山遺跡の大量の考古資料の活用を契機とし、文化財の保護をさいたま市全体の「地域のきずな再生」問題として発展させましょう。「見沼文化」を生かしたまちづくりを推進するためにも、行政と市民と学術・芸術ボランティアから構成する「将来の文化財を考える検討委員会」を設置し、包括的な愛着である「地域のアイデンティティ創造」とともに身近な「地域のアメニティ向上」を目指すべきです。

 

【構想提案の骨子】

ご承知の通り、埼玉県の文化財行政はさきたま古墳群を中心とした博物館の充実とリストラ推進であります。一方のさいたま市には「見沼田んぼ」があり、国史跡「見沼通船堀」もあります。そしてより重要なのはその周辺に縄文時代の遺跡があたかも遺跡銀座のように密集しており、見沼の自然環境の変遷と人類活動の歴史が具体的に復元できるという、他と比べて有利な地域的な特徴です。

埼玉県が古墳時代に注目しておりますので、さいたま市は歴史をより根源的に補完する意味でもルーツとなる縄文時代に迫り、自然環境とのかかわりの重要性をクローズアップします。

かつて海だった頃の貝塚から近世の「見沼田んぼ」に至る悠久なる人類史を、自然環境をキーワードに「見沼文化」として総合的に展開するアプローチが望まれます。

それには見沼の変遷について自然環境と人類活動の歴史を現地で実際に体感できる「見沼フィールド・ミュージアム構想」を中核とし、倉庫に眠ったままの価値ある全ての文化財に市民が身近に接し、しかも親しみながら交流が深められる活用空間(数千u規模)の確保と企画・運営が、「地域のきずな再生」の原動力として必要不可欠です。

具体的なイメージとしては県立博物館規模では大きすぎますし、無駄が多いです。県立博物館は極論すると担当する職員の研究の施設という思想が設計に強い影響を与えており、市民中心の考え方とは性格に大きな違いがあります。市民が運営できるようなより開放的で柔軟な施設が効果的です。

新生さいたま市によって形成されるであろう21世紀にふさわしい文化が将来的に明るく醸成されるには、グローバルな交流によって多様に考え、かつ地域に根ざした市民のための開放的な「見沼文化博物館」(仮称)が必要不可欠であります。

将来を担う子供たちには、見沼をキーワードとした新たな郷土愛が「地域のアイデンティティ創造」の成果として生まれることでしょう。その達成には身近な「地域のアメニティ向上」が史跡を含む見沼フィールド・ミュージアム空間によって常日頃実感できる状況が大切であり、史跡活用の連携・協力によるコミュニティの形成は「地域のきずな再生」に大きく寄与するでしょう。

 

<その他事項>:同封の参考資料および担当

  1.同封の参考資料

    (1)浅野光彦プロデュース・ビデオDVD (2006) 『見沼をのぞんだ縄文むら―馬場小室山遺跡に学ぶ―』(BGM:飯塚邦明作曲「小室山のテーマ」など)

      ・馬場小室山遺跡の重要性を市民向けにわかりやすく解説した活動記録ビデオ。

(2)「馬場小室山遺跡に学ぶ市民フォーラム」実行委員会監修/馬場小室山遺跡研究会編(2007) 『「環状盛土遺構」研究の現段階―馬場小室山遺跡から展望する縄文時代後晩

                             期の集落と地域―

      ・馬場小室山遺跡の重要性について考古学専門家が中心となって纏めた参考書

    (3)「馬場小室山遺跡に学ぶ市民フォーラム」実行委員会監修/馬場小室山遺跡研究会編

       (2008) 『【パブリック・アーケオロジー入門】馬場小室山遺跡―遺跡のサイエンスとアート、そして未来へのマネジメント―

      ・馬場小室山遺跡の重要性について市民とともに緑区のプラザ・イーストで実施したイベントの配布資料(提案書や資料集など)の合冊本

 

  2.担当

        「馬場小室山遺跡に学ぶ市民フォーラム」実行委員会事務局

                鈴木 正博(馬場小室山遺跡研究会主宰)

 

                                         以 上

 

 

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